薬学部に進学すると、多くのお金がかかります。
これは学費の他にも入学金や教科書代、施設利用費などが発生するためです。
また5年次に病院と薬局で実習を行うのですが、これにも追加のお金がかかります。
これらを合わせると、他学部とは比べ物にならないほどのお金がかかるのです。
裕福な家でもない限り、これを全て負担するのは大変ですよね。
実際に僕の周りにも、奨学金を借りて薬学部に通っている人は多くいました。
今回は学生時代に奨学金を借りた経験のある僕が、薬学部で1,000万円の奨学金を借りるとどうなるのかを解説していきます。
薬学部に6年通うといくらかかる?
薬学部には6年制学科と4年制学科の2種類があります。
国家資格である薬剤師免許をとるためには、6年制学科を卒業しなければなりません。
6年間大学に通うということは、単純に計算しても1.5倍の学費がかかるということです。
ただでさえ「日本の大学の学費は高い」と言われているのに、その中でもより高い方に位置するのが薬学部なのです。
では、具体的にどのくらいのお金がかかるのでしょうか?
国公立大学と私立大学に分けて解説してします。
国公立大学の場合
国立大学や公立大学の学費は、どこの大学・学部かによらず同じ金額です。
薬学部でも他の学部との学費差はありません。
国立大学は文部科学省の省令によって入学金、年間授業料、入学検定料が定められているからです。
2021年現在、次のように定められています。
▼国立大学の学費
入学金 | 年間授業料 | 入学検定料 |
---|---|---|
28万2,000円 | 53万5,800円 | 1万7,000円 |
参考:文部科学省「国立大学等の授業料その他の費用に関する省令」
上記は文部科学省が定めた標準額で、一部異なっている大学もありますが、ほとんどの国立大学がこの金額と考えてよいでしょう。
また公立大学も、多くが同じ金額です。
薬学部の場合は、他にも教材費や実習費用などがかかってきます。
これらの費用を全て含めた場合、かかるお金は6年間で合計350~400万円程度です。
6年間通学しなければならないので、やはり一般の4年制大学よりも学費は高くなっていますね。
私立大学の場合
私立大学の薬学部に通うと、国公立大学のときと比べて学費は大幅に高くなります。
入学金や授業料などを合わせると、なんと6年間で約1,200万円です。
高級車が買えてしまいますね。
代表的な私立大学のかかる費用を表にまとめました。
▼私立大学薬学部の学費
大学名 | 年間にかかる費用(円) |
---|---|
立命館大学 | 235万 |
慶応義塾大学 | 227万 |
日本大学 | 210万 |
東京理科大学 | 205万 |
星薬科大学 | 193万 |
京都薬科大学 | 180万 |
奥羽大学 | 153万 |
※数字は2022年7月現在のものです。経年により変わることがあります。
大学によっても差があります。
ちなみに上記の金額6年分の他に、入学金や教材費もかかってくるため、総額は1,000~1,500万円程度と考えておきましょう。
薬学部で奨学金を1000万円借りている人はいる?
多額の学費がかかる私立薬学部、奨学金を借りて通っている人もたくさんいます。
でも、さすがに1,000万円借りる人はいないんじゃないの?
僕の大学にはそれくらい借りている人もいましたよ。
特に一人暮らしで大学に通っていた人は、多く借りている印象でした。
例えば6年間でかかる学費が約1,300万円だとすると、ここに生活費を加えるといくらになるでしょうか?
一人暮らし大学生の1か月の生活費は、約11万円です。
参考:全国大学生活協同組合連合会「第57回学生生活実態調査 概要報告」
これらを合わせると、6年間で合計2,092万円もの金額になります。
もし親の援助で全てまかないきれない場合、このうちの何割かをアルバイトと奨学金で支払わなくてはいけません。
仮に半分を出してもらったとしても、まだ1,000万円ほど残っています。
たくさんアルバイトをしても、稼げるのはせいぜい年間100~150万円程度でしょう。
そのため残りの数百万円を、奨学金で借りる人がたくさんいるのです。
僕の知り合いの中には、親からの仕送りは最低限で、学費は全て奨学金で支払っている人もいました。
薬学部で奨学金を1000万円借りると返済がきつい?
でも、いくら薬剤師になれるとはいえ、1,000万円も借りたら返済が大変なんじゃない…?
まだ学生なのに、1,000万円という大金を借りるのは気が重いですよね。
薬剤師で安定した収入があっても、この金額の奨学金を返すのは難しいのでしょうか?
結論からいうと、工夫すれば問題なく返済できます!
奨学金を満額借りるといくらになる?
日本学生支援機構(JASSO)の貸与型奨学金を満額まで借りると、以下の金額になります。
▼JASSO奨学金の支給額
第一種 | 第二種 | 合計 | |
---|---|---|---|
月額 | 6万4,000円(※1) | 14万円(※2) | 20万4,000円 |
6年間の総額 | 460万8,000円 | 1,008万円 | 1,468万8,000円 |
※2 私立大学薬学過程の場合の上限額
参考:日本学生支援機構HP「第一種奨学金の貸与月額」
同HP「第二種奨学金の貸与月額」
満額借りれば、私立薬学部の6年間の学費は支払えそうですね。
国の教育ローンなどを併用すれば、さらに多くの金額を借りることができます。
満額借りた場合、返済までどのくらいかかる?
薬学部で満額借りたら、返済するのにどのくらいかかるんだろう…。
奨学金を借りたら、卒業後に必ず返さなくてはなりません。
中には奨学金を返せずに自己破産する人もいます。
それを防ぐためには、無理のない返済プランを立てておくことが非常に大事です。
JASSOの公式HPでは、返済のシミュレーションができます。
例えば第一種と第二種をそれぞれ満額借りて、私立薬学部を卒業したとします。
毎月定額で返済する場合、以下の条件です。
- 総返済額
私立薬学部で第一種・第二種ともに満額借りた場合、1,468万8,000円 - 月々の返済額
第一種 19,200円
第二種 43,651円
合計 62,851円 - 返済期間
20年
※貸与利率は年利0.369%で計算してあります。
20年間、毎月6万円以上の金額を支払い続けなくてはいけません。
かなりの負担になってしまいますね。
卒業後に奨学金の負担を少なくする方法
卒業後に奨学金の返済があると、今後の人生に影響します。
特に高額の場合は、家計にとって大きな負担です。
結婚や子育てに必要なお金を貯められなくなってしまうかもしれません。
それを防ぐためにも、奨学金の負担は少しでも軽くしたいものです。
そこで返済を楽にする方法を、5つ紹介します。
- 給付型の奨学金を利用する
- どこから借りるのかは慎重に選ぶ
- 在学中はなるべく奨学金に手をつけない
- 奨学金の返済を支援してくれるところに就職する
- 卒業後はなるべく早く返済する
一つずつ解説します。
給付型の奨学金を利用する
奨学金の返済額を少なくしたいのであれば、給付型の奨学金を利用しましょう。
給付型のものは、返済する必要がありません。
つまり奨学金の支給元が、自分の代わりに学費を負担してくれるということです。
とてもお得な制度なので、ぜひ利用するのをおすすめします。
ただし返済不要なだけあって、審査のハードルは高いです。
例えばJASSOの給付型奨学金を受けるためには、GPAの平均値が学部の上位50%に入っていなければなりません。
GPAとは、簡単にいうと大学の通知表みたいなものです。
数値が高いほど成績が良いことを表します。
この数値が上位に入っていることが、給付型をもらう条件です。
勉強が難しい薬学部において上位の成績を維持するには、相応の努力が必要です。
薬学部の大変さを解説した記事もあるので、ぜひ参考にしてください。
また家計に関する基準もあります。
学生本人と両親の収入が、一定以下でなければなりません。
また三者の資産額の合計が2,000万円未満であることも条件です。
詳しくは下記を参考にしてください。
給付型の奨学金はいくら貰えるんだろう?
支給額は実家から通っているかどうか、両親の年収がいくらかによって変わります。
私立薬学部の学生である場合、金額は以下の通りです。
▼給付型奨学金の支給額(月額)
区分とは、学生本人または両親の収入で分けられたグループのことです。
第1区分が最も収入が少なく、第3区分が最も多いです。
収入が低い区分ほど、支給額が多く設定されています。
ここまでで給付型奨学金の魅力をお伝えしましたが、1つ注意点もあります。
それは給付型奨学金をもらっている場合、第一種奨学金が減額される、あるいはもらえなくなることです。
▼給付型奨学金と併用した場合の第一種奨学金支給額
第1区分、第2区分の場合は、第一種奨学金が借りられません。
給付型奨学金を利用すると、借りられる額自体は少なくなってしまう場合もあります。
しかし返済不要というのは、長い目でみると大きなメリットです。
ぜひ利用することをおすすめします!
どこから借りるのかは慎重に選ぶ
奨学金の返済負担を減らすには、どこから借りるかを慎重に選ぶことが重要です。
なぜなら、金利が違うからです。
例えば、借り先によって次のように変わります。
▼奨学金・教育ローンの運営団体と年利
団体 | 年利(%) |
---|---|
日本学生支援機構(JASSO) 第二種奨学金 | 0.1~0.6 |
日本政策金融公庫 教育一般貸付 | 1.8 |
三井住友銀行 教育ローン(無担保型) | 3.5 |
横浜銀行 教育ローン | 0.9~2.9 |
JASSOの奨学金や、国が運営する日本政策金融公庫の教育ローンは、金利が低めです。
特に前者はかなり低く設定されています。
そのため基本的にはJASSOで借りるのが良いでしょう。
奨学金をどこで借りるかによって、将来の返済額がかなり変わります。
下記の表を見てもらうと分かりやすいです。
300万円の奨学金を10年かけて返済する場合、総返済額は…
- JASSO
→ 305万6,040円 - 三井住友銀行
→ 355万9,800円
金融広報中央委員会 知るぽると「借金返済額シミュレーション」をもとに計算
借りた金額は同じなのに、返済額が50万円も違う!?
たった1%の金利差が、10年後に大きく影響します。
そのため、なるべく金利の低いところから借りるのが鉄則です!
よほどの理由がない限りは、必ず金利の低いJASSOで借りましょう。
在学中はなるべく奨学金に手をつけない
もし都内で一人暮らしをして私立薬学部に通うと、多くのお金がかかりますよね。
学費や家賃、生活費etc…
これらを全て奨学金だけでまかなおうとすると、多額のお金を借りなければなりません。
多額の借金を返すのはとても大変です。
これを防ぐためにも、在学中はなるべく振り込まれた奨学金を使わないようにしましょう。
例えばJASSOの奨学金を満額まで借りると、約20万円が毎月振り込まれます。(私立薬学部の学生である場合)
このうち15万円で生活し、残りの5万円を使わずにとっておきます。
すると6年間で360万円のお金が残りますよね?
これを卒業後すぐに返済にあてれば、本来1,440万円返済しなければならないところを、1,080万円まで減らせます。
それでもまだ多いよ~
そう考えている方は、アルバイトをして少しでも生活費の足しにしましょう。
塾講師や家庭教師は時給が高めのところが多く、効率よく稼げるのでおすすめです。
アルバイトで月3万円稼げば、奨学金の使用額は12万円まで減ります。
すると卒業後の返済額は864万円です。
このようにして少しでも奨学金の返済額を減らしていきましょう。
初めは多めに借りて、生活に慣れてきたら借りる金額を減らすのもありです!
奨学金の返済を支援してくれるところに就職する
奨学金を効率よく返していくには、就職先も大切です。
当然ですが年収の高いところへ就職すれば、より早く返済できます。
しかし年収だけでなく、奨学金の返済をサポートする制度があるかどうかも重要です。
- 入社後に600万円を一括で貸与。5年間勤務すれば、返済を免除される。(貸与型)
- 毎月の給与に4万円を上乗せして支給する。(給付型)
上記のような制度を設けている企業は数多くあるので、就職サイトで探してみましょう。
うまく利用すれば、あなたの奨学金返済の大きな助けになってくれるはずです。
ただし注意点もいくつかあります。
まず就職先が限られてしまうことです。
- 地元で就職したかったけど、奨学金返済サポート制度のある他県の薬局に就職した。
- 病院で働きたかったけど、奨学金を早く返すためにドラッグストアに就職した。
こういったことは覚悟しておきましょう。
また奨学金返済サポート制度を利用するには、その会社が設けている条件を満たさなければなりません。
例えば入社後○年以上勤務などです。
決まった期間はそこに勤めなければならないため、転職したいと思ってもすぐにできないのがデメリットでしょう。
注意点もありますが、奨学金を多く抱えている方にとっては魅力的な制度です。
メリット・デメリットをしっかり把握し、うまく活用しましょう。
卒業後はなるべく早く返済する
もしお金に余裕があれば、奨学金をなるべく早く返済しましょう。
先ほどもお伝えしたように、利子が発生するからです。
返済に時間をかければかけるほど、余分なお金を支払うことになります。
そのため余裕のあるうちに、早めに返すのがおすすめです。
例えばJASSOには繰上返還の制度があるので、これを利用しましょう。
ネットで申し込みをすれば、毎月の返済額にプラスして、指定した金額を追加で支払うことができます。
まとめ
奨学金は便利な制度ですが、一方でその返済は経済的・心理的に負担がかかります。
あるアンケート調査では、薬剤師の約46%が学生時代に奨学金を借りていたという結果も出ました。
返済に悩む方も多いです。
そこで負担を少しでも軽くするために、5つの方法を紹介しました。
- 給付型の奨学金を利用する
- どこから借りるのかは慎重に選ぶ
- 在学中はなるべく奨学金に手をつけない
- 奨学金の返済を支援してくれるところに就職する
- 卒業後はなるべく早く返済する
これらを実行すれば、ある程度奨学金の負担を減らせるはずです。
しかし大きなお金を借りている方は、それでも負担に感じることも多いと思います。
悩んだら一人で抱え込まず、身近な人に相談してくださいね。